長野家庭裁判所松本支部 事件番号不詳 判決
本籍 長野県東筑摩郡本郷村大字浅間二二〇番地
住所 長野県東筑摩郡本郷村大字浅間七二番地
特殊飮食店営業 宇留賀武太郎 明治三十四年十二月三十日生
主文
被告人を罰金一万五千円に処する。
右罰金を完納しないときは金三百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は長野県東筑摩郡本郷村大字浅間二二〇番地において特殊飮食店「○○江家」を経営しているものであるが、昭和二十九年十二月十日頃当時十八歳未満の児童である○原○子こと○海○(一九三八年六月十一日生)を同女の外国人登録証明書其の他公信力ある書面により年齢確認の手続をとらず、同店の接客婦として雇入れ翌十一日より遊客を相手として売淫せしめ、昭和三十年二月十三日頃同女の外国人登録証明書により同女が十八歳未満の児童であることを知りながらも尚引続き同年七月二十八日頃迄の間、約百九十二回に亘り○岩○昌○外三百八十七名の遊客に売淫せしめ、以て児童に淫行をさせる行為をなしたものである。
(証拠の標目)
一、被告人の当公廷における供述
一、被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書
一、○海○の外国人登録原票(写)
一、○原○子こと○海○の当公廷における供述
一、○原○子こと○海○の司法警察員に対する昭和三十年八月十七日付並びに同人の検察官に対する各供述調書
一、○岩○昌○の司法警察員に対する供述調書
一、精算帳一冊(昭和三十年証第三九号の二)
(法令の適用)
被告人の所為は児童福祉法第三十四条第一項第六号第六十条第一項第三項に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択しその額の範囲内で被告人を主文第一項の如き刑に処し、刑法第十八条により右罰金を完納しないときは主文第二項の如く被告人を労役場に留置する。尚検察官は判示事実中被告人が児童の年齢を確知した昭和三十年二月十三日以後の事実は故意犯でありそれより以前の事実は過失犯であるから両者は併合罪として処罰すべきであると主張するが、児童福祉法の立法趣旨は一般的に児童の心身の発達を社会的に健全に保護しその福祉を増進することが目的であつて十八歳未満の児童には淫行は絶対になさしめてはならないことを規定しているものであるが、婦女子が特殊飮食店其の他に雇用される実情を見るに斯る社会における婦女子は一般的に早熟で容貌体格等では容易に十八歳未満であるや否やの判定が困難であると共に又婦女子の方よりも積極的に偽つた年齢を供述する場合もないとは云いがたく斯る場合に於ける年齢十八歳なりや否やの認識即ち犯意の認定を厳密に解するならば大部分の事件は故意犯としては成立しなくなるであろう。斯くしては児童福祉法の所期する目的は到底達せられないのでその救済法として規定されたのが同法第六〇条第三項の規定と云うべきである。
そもそも児童である十八歳未満と云う年齢は客観的且つ絶対的な観念で仮にこの児童を使用するものが或は特別な事情によつて客観的に児童である婦女子を主観的に非児童であると誤認して淫行をなさしめた場合でも斯く信ずることにより過失がある限り本条第三項の責任を免れ得ないのであつて刑法理論における犯意の観念について事実の認識に関する錯誤についての例外規定として本条違反については、児童の年齢の客観的認識について事実上の錯誤があつても、原則として故意責任を免責されるものではないことを明かにしたものと云うべきである。従つて本件公訴事実の第一、第二の如く被告人が単一意志のもとに引続いて一人の児童に淫行をなさしめた場合に於ては児童の年齢認識の点における故意と過失を区別することなく包括して一罪と認めるのが相当であつて検察官の主張は採用しない。
仍て主文の通り判決する。
(裁判官 神崎敬直)